うろつく巨大なエネルギー塊,、台風


 7月としては最大級の台風6号(マーゴン)が日本近海をうろついた。事前の警戒もあり、幸い大きな被害は無かった。 台風は北緯10度付近で海水温度上昇という形で蓄えられ偏在した熱エネルギーを、数千キロを越えて平均化しようとする壮大な大気運動である。
 ある晴れた日、南の海で暖かい海面からの上昇気流で発生した積乱雲が、地球の自転と、小さなきっかけによって反時計方向の低気圧の渦巻きを作る。 それは水の蒸発/凝固の潜熱のやり取りによって発達し、高度1万mに及ぶ積乱雲が無数に集まって渦を巻く台風となる。台風はおおまかには北上し、 丁度日本列島があるあたりの中緯度地域に熱エネルギーを主に雨として運んで来て放出する。 大型台風のエネルギーは10の20乗ジュール台と計算されるそうである。これは東日本大震災本震のエネルギーより2桁大きい。

 偏西風が弱い夏の台風は日本列島近辺の南海上で複雑な動きをする。台風6号も、西に向かっていたものが、沖縄付近で180度以上の方向転換をしている。
 今、我々は気象衛星によって台風の位置と規模をリアルタイムで知ることが出来る。気象衛星以前は富士山レーダーによって台風が800キロまで 近付いてから台風の雲の頂上の並びが観測可能になる程度であった。 では富士山レーダーが稼働する1964年以前はどうであったか、南の海に点在する観測拠点や船舶からの報告を頼りに規模と位置を割り出したのである。 観測拠点がなかったり、大きく開く場合は台風の位置を知る手だては無かった。洞爺丸を沈めた昭和29年の台風15号は拠点が無い日本海に抜け、 観測網から一旦消えた後、乗客を乗せて出港待ちの連絡船がいる函館港に不意に現れたのだった。
 低気圧の存在など知らず、現在の天気が良いからと出港して難破事故を繰り返した遣隋使船、遣唐使船の時代と大差なかったのである。 それがたった数十年前の台風観測の現実であった。  

                                                          2011年7月24日

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