チーグラー・ナッタ触媒

 

 スーパーのレジ袋有料化は今話題の日本学術会議の提唱からだという。レジ袋はそのままゴミ出し袋に使える自治体もあるし(例えば横浜市)、 自治体指定ゴミ袋がある場合でも毎日の生ごみ処理にはレジ袋の類のプラスチックの小袋が必要である。 これらは正規に処理されるので、無秩序に環境に廃棄されるレジ袋はごく一部であろう。 実際、汚染が一番問題になる海洋マイクロプラスチックでレジ袋由来は重量で1パーセントにも満たないらしい。 つまり、レジ袋は汚染への寄与率は僅少であるのに身近で目立つが故にスケープゴートにされたのである。

 レジ袋は高密度ポリエチレンかポリプロピレンで作られている。ポリエチレンを作るには、 エチレンの炭素-炭素二重結合を開いてエチレン分子同士を結合させていく、 これを重合というが、エチレンは安定な分子で重合には数百気圧と高温が必要だった。 1953年ドイツの化学者チーグラーがこれを数十気圧に引き下げる触媒を見出した。 それでできたポリエチレンは分子が高密度に並んでおり、従来の高圧法によるものより丈夫で実用性にも富んでいた。
 1954年イタリアの化学者ナッタはチーグラーの成果を踏まえた上で 、二種の触媒を組み合わせてそれまで工業的には重合不可能だったプロピレン(エチレンにメチル基が1個付いた構造)の重合に成功した。 創られたポリプロピレンはメチル基が立体的に規則正しく並んだ構造で機械的強度にも優れた画期的なプラスチックだった。
 チーグラーとナッタは犬猿の仲だったが、1963年のノーベル化学賞を共同受賞した。 私が化学を学び始めたころ、チーグラー・ナッタ触媒はまだ改良の余地満載だったが、 立体規則性重合への途を拓いた高分子化学の精華であると習った。 当時でもポリエチレン/ポリプロピレンの化学的安定性は諸刃の剣だと言われていたが、 今や安定からくる悪ばかりが強調されている。高分子化学の精華と学んだ者としては心外であり心苦しい。

                                  2020年10月22日

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