『ポルノ』。AVというビデオの登場でいったんは死んだ言葉がもういちど、フィルムの質感でよみがえった。それも写真集という形で。
けれども1ページ1ページに映画を見ているかのような立体感を浮かび上がらせながら。目の中にうずまくセリフ。明らかに息をしている口。どんな場面でもためらわず、音をたてるようにしなる体…。
オリジナル・プリ ントならいざ知らず、印刷物という言ってみればコピーで、なおこれだけの生命力を感じ
させるのはすごいことだと感じた。しかも描 くタッチは絢爛だ。安土桃山のカブキ者を想 わす絵巻もあれば、アメリカン・スタイルの
ストリップもある。巫女のように自然と交感 する姿もあれば、メカニカルなバレエのシー ンもある。
一体この作品にはどれほどの時がかかってるのか?「3ヶ月、ぐらいかなあ」。撮影3日 で仕上げてしまう写真集とかと比べれば大変
な日数だけど、もっとかかっていても全然お かしくない気がする。「ま、今回の本とは関係 ないところでここ3年ぐらい、彩ちゃんのことは撮ってたんだけどね」。と言ったあとで管野さんは、手山郁夫の話を始めた。同画伯が30年の歳月をかけてシルクロードを踏査し、その上で薬師寺の壁画を描き上げた話を。「たとえ実際に描いた期間は1年でも、それ以前の30
年があることで絵にこもるものはぜんぜん違ってくると思うんだ」。そう聞いてふと、どんなにうまいメンバーを集めてもすぐにはいいバンドにならない、という事実を思い浮かべた。長年にわたって
ミュージシャンを撮り続けてきた管野さんだけに、もちろんそんなことも実感していたにちがいない。そして彼もまた、杉本彩と3年間にわたってセッションをくりかえし、最後の3ヶ月を記録に残した。
おそらく撮る側と撮られる側が体半分ぐらい溶け合った状態での撮影。結果、ふつうの意味での写真家やモデルといった存在は消え、官能のアングルと語りまくるポーズのみが美しい形を成したの
だと独断した。そんな作品『ポルノ』を試写して、見終わったとき得たのはT金襴緞子のエクスタシー″ という手応えだった。
今津 甲